(1)授業の達成目標 | 授業で得られる「学位授与の方針」要素 | ⇔ | 【授業の達成目標】 | 大学DP | 学士の称号にふさわしい基礎学力と専門的学力 | ⇔ | 法律というものは何か、社会でどのような役割を果たしているのか、また世の中の変化に連れてどう変化していくのかといったことを扱います。法律は経法学部では専門課程で扱いますが、どのような職業に就くにしても、法律というもののあり方をある程度知っておくことは有益です。そのため、どの学部の学生にも有意義になるように心がけます。 |
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(2)授業の概要 | 最先端の話題を使った法学入門の授業です。法律を仕事にする人はもちろん、そうでない人にもためになる講義を目指します。(たとえば起業する場合には法律への「土地勘」が必要です。) 講師は主としてビジネスに関係する法分野を専攻してきたので、それに関わる講義が中心になります。今日の経済では、土地や機械設備のような「目に見え手で触れられる」財産(有体物)から、目で見えない、手で触れられない財産(知的財産)に価値の重心が動いています。いま「世界最大企業」の座をめぐってマイクロソフト社とアップル社が競っていますが、いずれも、事業価値の大きな部分はブランドや技術力であり、工場のような大きな設備ではありません。特許、営業秘密、著作権、商標といった知的財産が経済の中心となっているのです。これを「知識経済」といいますが、法の面からその基礎を作っているのが知的財産法であり、その面から法学の入門を図ります。 もう一つ大事なことは、法律というものの性質上、最先端の話題についても古くからの原則や基本的な考え方が大事だ、ということです。そこで、この授業では、法律の基本的な考え方を、最先端の話題を題材に解説することにします。たとえば「契約」については、お店で物を買うときの「売買」や下宿に住むための「賃貸借」が最も身近な存在で、法学入門の授業ではそれを使うのが普通です。しかしこの授業では、芸能人の出演契約や著作権ライセンス契約を使って、契約がどのようにビジネスで使われるのかを説明するのです。 担当教員(玉井克哉)が東京大学教授を兼任しているため、原則として隔週で開講し、金曜の4限・5限を使って2コマ続きの授業をする日8回で実施します。それぞれの内容は、「授業計画」にある通りです。 なお、担当教員(玉井克哉)は弁護士登録をしており、ささやかながら起業経験もあります。そうした実務経験を生かした内容にします。 |
(3)授業のキーワード | 発明 特許 著作権 特許 営業秘密 ブランド 商標 不正競争防止法 知識経済 経済安全保障 グローバル化(グローバリゼーション) 裁判 契約 財産 |
(4)授業計画 | 以下の通り、Ⅰ~Ⅷの8回、原則として2コマ続きにし、最終日は1コマ(+フリーディスカッション)で計画しています。
Ⅰイントロダクション 第1回 ガイダンス 受講者の大半が大学に入学したばかりの諸君であることから、まず、大学で学ぶとはどういうことか、高校までの勉強とどう違うか、これからの4年間、大学での生活にどのような心構えで臨むのをお勧めするかといったお話をします。 第2回 法学のさまざまな分野と知的財産法/知識経済と知的財産 現代社会で知的財産法という分野がなぜ重視されるのかを説明します。冷戦終結後の1990年代以降、「グローバル化」が時代の潮流となりました。知的財産が重要になったのは、その結果です。日本や米国、欧州など、主要先進国の歴史をさかのぼってそのあたりを説明します。
Ⅱ=第3回・第4回 <契約1>共存共栄のビジネスモデル――著作権の集中処理 私たちの生活は、契約関係によって埋め尽くされています。たとえば、皆さんは教室で授業を受けますが、建物にも敷地にも国立大学法人信州大学が所有権を有しています。そこに無断で立ち入ることが、なぜ信州大学の所有権の侵害にならないのか。あるいは、アルピコ交通のバスに乗車するとき、なぜ所定の運賃を支払わねばならないのか。そして、カラオケで歌うとき、作詞家・作曲家が著作権を有する楽曲を無断で歌唱することがなぜ著作権侵害とならないのか。これらの答えは、「契約があるから」です。特にこの3番目の問題を題材に、契約の役割を解説します。
Ⅲ=第5回・第6回 <契約2>芸能人と事務所の契約など 東京から山縣敦彦弁護士をお招きして、契約の実務についてお話をしていただきます。1コマ目(第5回)を講話にし、2コマ目(第6回)を質問の時間にしたいと思います。
Ⅳ=第7回・第8回 <財産権>略奪型のビジネスモデル――パテント・トロール 法律の世界で「権利」と呼ばれるものについて、まず一般的な説明をします。その中で経済的側面の強いのが財産権であり、知的財産権はその一種です。権利は、著作権法、商標法、特許法など、法律によって定まっているのが普通です。この「権利」を巧みに利用して金儲けをする「パテント・トロール」というビジネスについて解説し、権利とは何か、制約はないのか、それらを説明します。
Ⅴ=第9回・第10回 <不法行為>権利未満の「利益」が法の世界に現れる過程 民事法のジャンルにおける最も基本的な道具は、「不法行為」です。これは、法が保護した「利益」を侵害する行為について、被害者から加害者に損害賠償を求めることができる、というものです。では、何が法の保護した利益なのか。条文になった法律に書かれていることもありますが、書かれていないこともあります。たとえば、芸能人の写真を使ってカレンダーを作成し販売する行為が、法の保護した利益に触れるのか、どうか。競走馬の写真だったらどうか。そうした問題から、法的利益と「権利」の生成について説明します。
Ⅵ=第11回・第12回 <刑事法>刑事罰を用いたルール形成――営業秘密 「秘密として管理された非公知で有用な情報」を権利の対象とするのが、営業秘密の法制度です。アメリカは1990年代後半から営業秘密法制の整備に力を入れ、しかも他の知的財産法分野と違って刑事法を積極的に活用し、最近では華為電子(Huawei)副会長の身柄を拘束して起訴するなど、米中摩擦の火種となっています。では、日本はどうするか。国際的な「ルール形成戦略」という視点から、実情を説明します。
Ⅶ=第13回・第14回 <公権力>政府の役割――独禁法(合衆国対マイクロソフト事件をめぐって) 1990年代以降、卓越した技術力と斬新なビジネス戦略によって隆盛を極めたマイクロソフト社は、その絶頂期に独禁法違反の廉で合衆国政府に訴えられ、実質的に敗れたために、その後のビジネスを大きく制約されることになりました。ビジネスで勝ち法律で負けた同社の蹉跌がなければ、アップルやグーグルは、今日のような姿になっていなかったはずです。法律がビジネスに影響するというのはどういうことか、端的な実例を紹介します。
Ⅷ=第15回(+補講) <国際法>国際法と知的財産権 世界経済のグローバル化は、法的には、1995年の世界貿易機関(WTO)設立によって形作られました。しかしそれが、米国と中国の間の「新冷戦」と呼ばれる事態によって、大きく動揺しています。さらに、2022年2月以降のロシアによるウクライナ侵略戦争は、戦後の国際協調体制そのものを崩しつつあります。グローバル化の時代が終わり、経済安全保障の時代が始まる、激動期にさしかかっているのかもしれません。法から見たそのありさまを、できるかぎり分かりやすく解説します。 |
(5)成績評価の方法 | 試験は行わず、レポートによります。学期中に2回か3回の「中間課題」を出し、学期末に「最終課題」を出します。 学期中の「中間課題」は、中間段階での学生諸君の問題意識のあり方を確認し、授業に出席するための勉学を促すために、テーマを決めて出題します。これを提出していなくとも成績評価の対象にはなりますが、よい成績はつきません。 学期末の「最終課題」を提出しない場合は成績評価の対象にならず、単位がつきません。 出欠は評価基準ではありませんが、この授業は他では得られない知識と洞察を提供するものですので、出席が少ない場合は成績評価の対象とならず、単位がつきません。対面式の授業においては、教室のシステムを使って、毎回出欠を登録するようにしてください。リモート式の授業を実施する場合にはログインによって出欠を取りますが、授業中の質問に答えない、あるいはグループワークに参加しない場合は、欠席とします。 また、授業中・授業終了後の質問については、加点要素としてのみ扱う(良い質問を加点要素とし、そうでない質問でも減点要素にはしない)ことにしています。リモート式の授業を行う場合、顔を出して参加するボランティアを募集し、それに協力した場合も加点要素として扱うこととします。 |
(6)成績評価の基準 | 大学教育全体の目的は、「オリジナルな知的貢献ができるようになる」ことです。そのためには、①先人の考えや事実に関するデータを踏まえ、②批判的に接して、その上に③オリジナルなもの、自分だけのものを加える、という手順を踏むことが必要です。(第1回の授業でお話します。) この中で大事なのが、批判的だということです。批判的だというのは、他者の考えをよく理解し、その長所を踏まえた上で問題点を指摘するという姿勢をいいます。単に他者の考えを否定することではありません。(また、批判の対象は言説です。人格ではありません。世の中には、口汚く他人を罵ることを「批判」と称する者もいますが、それは間違いです。)学者は、世の中の常識や専門分野の通説を「批判」することを、仕事にしています。教室で授業を聴く諸君の場合、教師の見解を「批判」するのが大事なことです。 正しく「批判」を行うには、先人が何を述べたのか、既存の知識として使えるデータは何かを、踏まえねばなりません。それを怠っていると、議論が宙に浮いてしまいます。 これらの点、特に②の「批判」を行っているかどうかを、特に重視します。他人の考えの引き写しでレポートを書くのは「批判」とは遠い営みであり、この科目で何かを得たとは認められないので、「不可」となります。特に、既に他人が開示している考えを自分のものとして開示することを「剽窃」といい、すべての学問分野で最も忌むべきことだとされています。レポートで剽窃が認められた場合、信州大学の方針に従い、最も重い措置を学部当局に要請することとしています。この方針はすべての科目に共通することと思いますが、他人の知的成果物を尊重するのが知的財産法の基本ですので、特に厳格に対処します。 |
(7)事前事後学習の内容 | このシラバスに目を通すのは、多くが新入生諸君だと思います。大学での勉強は、本来、授業で聴くよりも自学自習がメインです。(第1回で説明します。)ただ、この授業では、最先端の話題を扱うため、「これ」という本を推薦することが難しいのです。直接関係のある参考図書は各回に提示しますが、それよりも、各自の将来の方向に合わせて勉強を深め、この授業で刺戟を得ることを目標にしてください。 |
(8)履修上の注意 | 担当教員(玉井克哉)が東京大学教授を兼任しているため、2コマ連続の授業を原則として隔週で開講します。日程は学期開始時に確定させます。履修する場合、金曜の午後が定期的にふさがる用務(アルバイトなど)を入れるには適しません。 開講日には、必ず出席してください。 コロナ禍によるリモート授業の経験を踏まえ、リモート形式の活用も考えます。 |
(9)質問,相談への対応 | ・口頭での質問は、授業終了後に随時受け付けます。 ・ウェブ上で意見交換をする仕組みを考えます。授業時間後に来た質問に対して、時間の許す限り次の授業でお答えするようにします。 ・ご希望があれば、授業時間前(3限目)にアポを取っていただき、オフィスアワーを設けます。 |
(10)授業への出席 | 全ての回に出席することを基本とします。 |
(11)授業に出席できない場合の学修の補充 | 「学修の補充の対象とする事由」により授業に出席できない場合には、当該授業に関わる書籍数冊か玉井の論文数本を指定し、一定期間を置いて試験を行い、出席に代わる到達度を評価します。 |
【教科書】 | 指定しません。下記のもののPDFファイルを開講時までにe-ALPS にアップします。各自、開講までに目を通しておいてください。 玉井克哉「知的財産法(1-3)」水野忠恒他『現代法の諸相』(改訂版、1995年)67-103頁。 |
【参考書】 | 授業内で適宜指示します。 |
【添付ファイル】 |
なし |